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東京地方裁判所 昭和32年(行)77号 判決 1958年12月18日

原告 三橋幸太郎

被告 国

主文

本件訴を却下する

訴訟費用は原告の負担とする

事実

第一、双方の求める裁判

一、原告

(一)  被告は、東京法務局民事行政部登記課保管にかかる家屋台帳の別紙記載中、床面積、賃貸価格欄の第一行目の記載上の二本の赤斜線及び所有者の住所氏名欄の第一行目の記載上の黒斜線並びに各登録事項欄第二行目以下の記載を抹消して家屋台帳の登録の誤りを訂正せよ。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二、被告

主文同旨の判決

第二、双方の主張、

一、原告

(一)  原告は、昭和二十年十二月末日、東京都中央区銀座五丁目五番地の八に店舖一棟(以下本件建物という)を建築してその所有者となり、右建物について東京法務局民事行政部登記課保管にかかる家屋台帳に、家屋の所在銀座西五丁目五番地の八、家屋番号銀西町五丁目三番一一、種類店舖、床面積一五坪六五、賃貸価格三九四、所有者の住所銀西町五ノ五ノ八、氏名三橋幸太郎と登録された。

(二)  ところが被告は何等の変更事由もないのに右家屋台帳の記載中、床面積、賃貸価格欄の第一行目の前記記載上に二本の赤斜線を、所有者の住所氏名欄の第一行目の前記記載上に黒斜線を引き、各登録事項欄第二行目以下に別紙のような登録をなした。

(三)  しかしながら、被告のなした右抹消及び登録はすべて誤りであるから、原告に対し右誤りの訂正を求めるため本訴に及んだ。

(四)  本件建物が取毀されて現存しないことは認める。

二、被告の主張

(一)  家屋台帳の家屋の所有者に関する事項についての登録を変更し又は訂正するには、当該不動産について所有権保存の登記がなされている場合には、先ずその名義人を相手方とする訴を提起し、当該所有権保存登記の抹消登記手続を命ずる確定判決をえた上で同人名義の所有権保存登記を抹消し、家屋台帳法第二十二条、土地台帳法第四十三条の二第二項の規定による登記所の処分によつて同人名義の台帳登録の抹消をうける以外の方法は認められていないのである。

(二)  もつとも土地台帳法第三十八条第二項によれば登記所は家屋台帳の登録に誤りがあることを発見したときはこれを訂正しなければならないと規定されているけれども、右規定は家屋の客観的状況すなわち家屋の種類、構造、床面積等に関する事項についての登録の訂正に関する規定であつて、家屋の所有者に関する事項の訂正の場合には適用されない。

(三)  本件家屋台帳についてもすでに訴外阿部広吉名義(現在は相続人阿部勝三名義)で所有権保存の登記がなされていることは明らかで、右登記簿の所有名義を無視して家屋台帳に登録された所有名義の抹消を求めることはできない。又床面積、賃貸価格の変更訂正の点については本件建物は既に取毀され現存しないものであるからこれを求める利益のないもので本件訴は不適法である。

第三、証拠<省略>

理由

家屋台帳は登記所が職権により家屋の現況を調査し(もつとも一定の登録事項については所有者等に申告義務が課せられているけれども、右申告は登録をうながしその資料を提供するに過ぎない)、その実体を正確に把握しようとするところにあるが、家屋の物的状況に関する登記及び未登記家屋の所有権保存登記については家屋台帳の記載が基礎とされ、またそれ自体建物の状況について強い証明力をするものであるから、建物の権利者は家屋台帳の記載について利害関係を有するといわなければならないが、本件建物がすでに滅失していることは当事者間に争がないから、原告としては、もはや本件建物につき所有権保存登記を求めることはできないといわなければならず、したがつて右登記を受けるために家屋台帳の訂正を求める利益はないし(もつとも本件建物についてはすでに訴外阿部が所有権保存登記をなしていることは成立につき争のない甲第一号証によつて明らかであるから、本件建物が現存していたとしても、原告としては右阿部の所有権保存登記を抹消しない限り所有権保存登記をうけることはできず、また右阿部の所有権保存登記の抹消を受ければ当然職権により家屋台帳は訂正されるはずであつた)、また建物の現況を明確にするために家屋台帳の訂正をする利益も失われたものというべきである(もつとも建物が滅失しても建物の過去の情況を証明するため家屋台帳の記載を利用するという限りにおいては家屋台帳の記載が全く意義を失つたとはいえないけれども、過去の家屋の情況を立証するには家屋台帳の記載によらなくとも家屋台帳の誤りを立証する証拠により直接これを証明すれば足りるはずであるから将来の立証の便宜のため家屋台帳の訂正を求めておく利益はないというべきである)。

そうすると原告としてはもはや家屋台帳の訂正を求める利益を有しないというべきであるから本件訴は不適法といわなければならない。よつてこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 越山安久)

(別紙省略)

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